歯磨きは1日何回すればいいですか?と患者さんから質問されることがあります。
エビデンスに則って言えば、その答えは1日2回です。
したがって、日本で推奨されている回数も1日2回です。
今回は少し専門的に、いくつかの有名な論文を紹介しながら、この回数の意味を考えてみたいと思います。
デンタルバイオフィルムとは?
歯磨きはプラーク(デンタルバイオフィルム)を除去するために行います。
バイオフィルムとは、微生物と微生物が産生する物質が集合して作られる構造体で、固体や液体の表面に付着したもの、と定義されます。身近なもので言うと、排水溝のヌメリや、水周りのピンク汚れもバイオフィルムです。お口の中も常に多種多様の微生物が存在し、バイオフィルムを形成しています。食事の後、歯を磨かずに過ごすと歯がざらついたりねばついたりしませんか?それがデンタルバイオフィルムであり、虫歯や歯周病の原因になります。
デンタルバイオフィルムが形成される過程
ざらつきやねばつきを感じたら歯磨きをすれば歯がツルっとしてスッキリしますよね。これは、デンタルバイオフィルムが除去されたということです。
しかしすぐに新たなデンタルバイオフィルムが形成されていきます。歯磨きをした直後から、歯の表面には口の中のいくつかの種類の常在菌が付着します。付着したその場で細菌が増殖したり、さらに別の種類の細菌が付着したり、それらの菌が粘着性の物質を産生したりして、24時間以内にバイオフィルムが形成されます。
そして、48時間以内に厚みが増し、バイオフィルムは歯周病や虫歯をより作りやすいものに変わっていきます。
参考:Wake N et al., Temporal dynamics of bacterial microbiota in the human oral cavity determined using an in situ model of dental biofilms. Npj Biofilms Microbiomes 2, 16018, 2016
では歯磨きの回数は?
歯磨きはデンタルバイオフィルムを除去するもので、デンタルバイオフィルムは24時間で作られる。……ということは、歯磨きを1日1回すればよいのでしょうか。
理論上は正しいのですが、そういうわけにはいきません。というのも、完璧な歯磨き、すなわち、デンタルバイオフィルムをゼロにする歯磨きはほとんど不可能だからです。毎回の歯磨きではどこかに必ず磨き残しがあります。特に磨き残しやすい部位は、その人の歯磨きの癖などにも影響されるので、だいたいいつも同じようなところになりやすいです。1日1回歯磨きをしても、同じ場所を2回連続で磨き残してしまった場合、そこに残るバイオフィルムは48時間以上放置されたことになり、虫歯や歯周病を引き起こしやすい状態になってしまっているのです。その可能性を低くするためにも、1日2回が有効と考えられます。
本当に1日2回でよいのか?
歯磨き頻度によって虫歯リスクが変わるかどうか調べた研究が複数あります。そして、それらを広くまとめて、全体的な結果としては何が言えるのかということをまとめた「レビュー」というのがあります。
2016年に発表されたレビュー1によると、
・歯磨き頻度が低いと虫歯リスクが1.5倍高い
・1日2回以上歯を磨く人は1日1回以下の人よりも虫歯リスクが低い
・永久歯よりも乳歯の方が、虫歯リスクに対する歯磨き頻度の影響が強い
ことが示されています。
2023年に発表されたある研究2では、
12歳を対象に習慣的な歯磨き頻度と数年後の虫歯の数にどんな関係があるか調べました。これによると、1日3回歯を磨く人は、1日2回の人よりも虫歯リスクが低いことが分かりました。となると、3回磨く方がより良いのかもしれません。しかし、現時点では、3回と2回を比較した研究が少なく、全体的な結果を示すレビューにはまとめられていません。
また、これらの歯磨き頻度と虫歯リスクの関係を調べた研究では、あくまでも頻度を見ているだけで、どのような歯磨剤を使ったのか?歯磨きはどのくらい上手にできているのか?ジュースをどのくらい飲んでいるか?といった点は評価されていません。ですから、実は、「回数が多いから虫歯が少ない」と単純に言えるわけではないのです。
ですが、現時点での全体的な結果としては、頻度が高いほど虫歯リスクが低い、ということは明確に示されています。歯磨きは2回以上を習慣化しましょう。